小川和久
2017年7月21日
I. はじめに
小川和久・静岡県立大学特任教授
小川和久は本論考で、グローバル化した世界におけるテロリズムのリスクを減らすための、拒否的抑止を含むシステム的アプローチと、核テロリズムのリスクを減らすための念入りな措置をとることを主張している。日本の政府や企業のテロ対策が縦割りで形式に流れており、日本社会のすべてのセクターが確固たる意志をもって念入りに取り組むことで改善しなければならないと指摘している。また、テロリズムに対する予防的な取り組みは必然的にグローバルであり、グローバル・テロリズムの起源と推進力に対する措置がなければならないとも提言している。
この特別報告は、「東アジアにおける核テロリズムと使用済み核燃料脆弱性のリスク軽減プロジェクト」のために準備されたものである。 2015年9月14-15日、東京の国際文化会館で開催されたノーチラス研究所ワークショップで発表された。同ワークショップはマッカーサー財団の助成を受けた。
本報告に記載されている見解は、ノーチラス研究所の公式の政策または立場を必ずしも反映していない。ノーチラス研究所が、一致点を見出すために、重要なテーマについて多様な見方と意見を求めていることに留意されたい。
英訳にあたり、西恭之・静岡県立大学特任助教に協力いただいた。
バナー画像出典:福島第一原子力発電所の共用プール建屋から乾式キャスク仮保管設備への乾式キャスクの輸送、2013年4月4日、東京電力写真ライブラリー
II.特別報告(小川和久)
使用済み核燃料の管理とテロへの脆弱性――日本の現状を直視する
2017年7月21日
本日のスピーチは、ワークショップのテーマ「使用済み核燃料の管理とテロへの脆弱性」を前提とし、主催者から投げかけられた問いに答える形で進めたいと思う。
私が話すように求められているのは、「今日のグローバル化した世界における、日本に関わる「メガ」テロリズム(大量破壊兵器テロ)のリスクについて」である。
そして、1)国内外の非国家主体による大量破壊兵器、特に核兵器を用いた攻撃に対する日本の脆弱性を決定する要因は何か、2)日本に対するこうした攻撃の脅威はどれほどあるか、3)日本に対する脅威はどのように変化しているか、という3点の問いが提示された。
まず、第1の点から述べていくが、結論は議論するまでもなく明白である。
日本にとって最大かつ致命的な脆弱性は「NATO体質」である。この場合の「NATO」とは北大西洋条約機構ではなく、日本の国家や国民が内包する「ノーアクション・トークオンリー」という、著しく実行力に欠ける行動様式と精神構造である。これが非国家主体による大量破壊兵器を使った攻撃を招く決定要因になると懸念せざるを得ない。
とにかく、日本のシステムはすべてにおいて形式に流れ、現実には機能しないものが多い。とりわけ、世界に出して通用しなければ零点しかもらえない外交・安全保障・危機管理において顕著である。
少し長くなるが、いかに日本が「NATO体質」であるか、それを物語る実例を紹介する。
日本の危機管理を象徴しているのが今年4月22日に発覚した首相官邸ドローン事件だろう。このときの日本政府の対処の様子を見れば、大量破壊兵器、とりわけ核兵器を用いた攻撃を議論するなど、100年早いということがわかるはずだ。
事件は、4月22日午前、首相官邸の屋上にドローンが落下しているのを首相官邸職員が発見したことで明らかとなった。機体上部に液体入りの茶色いプラスチック容器(直径3センチ、高さ10センチ)が取り付けられており、RADIOACTIVEのシールが貼られていた。容器内の液体は福島第1原発関連の汚染水とみられ、セシウム134、セシウム137が検出された。2日後、出頭した福井県在住の男性が逮捕された。
この事件では、まず、1ヵ月間も首相官邸屋上の点検が行われておらず、ドローンが落下してから発見まで13日が経過していたことが、世界の警備担当者を驚かせた。
実を言えば、私は首相官邸への空からの攻撃について、既に2002年3月26日、その脆弱性の指摘を行った立場である。このとき、二桁のセキュリティ・ホールを指摘し、ただちに改善するよう勧告していた。
首相官邸のチェックを行った日の午後、前年9.11の同時多発テロを受けて経空テロ対策を警察庁、防衛庁(当時)、国土交通省の担当者と協議した。首相官邸については、屋上への見張りの配置、監視カメラの設置のほか、小型の対空レーダー、センサー(音響、振動、熱)を設置するよう勧告したが、今回のドローン事件で、なにひとつ実行されていなかったことが明らかとなった。
当時、一緒に首相官邸のセキュリティ・チェックを行ったキャリア官僚たちは各省庁の事務次官級になっているが、「あのとき、小川さんは特殊部隊やテロリストがHALO(高高度降下低高度開傘)やハングライダーなどで官邸屋上に降り立ったり、無人機が接近することを想定して、対策を講じるよう勧告していましたね。なにも実現していなかったなんて…」と、一様に絶句してしまった。
ホワイトハウスの敷地に墜落した機体(シークレットサービス撮影)
日本の警備当局が、発生したばかりのホワイトハウス・ドローン墜落事件(1月26日)の教訓に学んでいなかったのは、いまさら説明するまでもないだろう。
首相官邸ドローン落下事件
それに、上空からの画像でもわかるように、日本の警察官は発見されたドローンに無防備な状態で接近していた。結果的には放射性物質(原発由来の汚染水)が積まれているとわかったが、それまでの段階で爆発物、生物化学剤を警戒しながら、対爆スーツや化学防護服で接近し、現場検証するというステップを踏むことはなかった。命知らずと言うほかない。
ドローン事件ばかりではない。日本国民がどれほど危険な状態に置かれ続けてきたか、それは地下鉄サリン事件から20年を経過した日本のNBCR対策の現状を見れば明らかだ。
地下鉄サリン事件(1995年3月20日 東京)
サリンなど神経剤を使ったテロに対する解毒剤の準備については、私は1995年3月20日の地下鉄サリン事件の直後から国家備蓄と全国民による訓練を提唱し、2001年9月11日の同時多発テロの前年に、米国の危機管理要員が携行するハンドブック『生物化学兵器』(啓正社)を監訳(翻訳は西恭之氏)、出版してもいる。
解毒剤を大量に国家備蓄し、随時、国民が使えるように訓練をしておけば、テロリストは大規模な被害を期待できないことから、訓練が行われた地域でのテロを諦めるという抑止効果が期待できる。米国では1300以上の拠点にコンテナ2000個(145万人分)が備蓄されている。同じ発想で取り組んでほしいというのが私の提言だった。
ところが日本では、備蓄の必要性が2014年7月の厚生科学審議会で提言されたという状態だ。政府は私の指摘から20年間、無策に終始し、国民を危険にさらし続けてきたことになる。
サリンの解毒剤については、薬事法の特例として陸上自衛隊と東京消防庁が輸入を認められているが、その保有量に限りがあるだけでなく、先進国で常識の解毒剤の自動注射器(MARK-1 Auto Injectorなど)が、省庁間の縦割りの調整が遅れたことによって導入できずにきたという深刻な問題を抱えている。
宇宙服のような化学防護衣をつけてサリン散布の現場に入っても、できるのは被害者の搬出がせいぜいで、一刻を争う解毒剤の投与は自動注射器なしにはできない。解決には厚生労働省、総務省消防庁、警察庁、防衛省を束ねる政治のリーダーシップが不可欠だが、そういう問題意識による取り組みは行われていない。
今回のワークショップは「使用済み核燃料の管理とテロへの脆弱性」をテーマとしているが、日本のようなレベルの低い国が原子力発電所を44個所(稼働中1個所、再稼働申請24個所)も持ち、その一方で原子力エネルギーをコントロールしようとしてこなかったという「恐怖の現実」を見れば、日本の存在こそ世界最大級のリスクと位置づけてもおかしくないだろう。
原発のシビア・アクシデントを論じる以前に、深刻な事態につながりかねないテロ対策の現実を明らかにしておきたい。
関西電力美浜原発での対テロ訓練(2013年11月)
原発での対テロ訓練
原発を警備する警察の銃器対策部隊
関西電力高浜原発(福井県)
高浜原発の立地(京都まで60km)
日本の原発のテロ対策がどれほどお粗末で形式的か、それは2005年11月の関西電力美浜原発での住民避難実動訓練を観れば理解できるだろう。
この訓練の2ヵ月前、私はリアリティに欠けるシナリオの内容について内閣官房に指摘した。テロリストの正体や目的が不明だったばかりでなく、迫撃砲で攻撃し、警察と銃撃戦を行い、メイン・コントロールルームを占拠するという、専門家であれば首をかしげるようなシナリオだったからだ。
大規模停電テロが目的なら大都市でやるのが効果的だ。放射能汚染でパニックを狙うなら、周辺施設を破壊する手立てを講じればよい。シビア・アクシデントならサイバー面から全電源喪失状態にすることを考える。そう考えれば、わざわざ原発を正面から攻撃する必然性はどこにもない。
ところが、サイバー面からの原発のセキュリティについても、日本の専門家はセイバー空間で完結するものだと思い込み、テロリストの立場で見ることがない。だから、物理的な脆弱性やソーシャルエンジニアリングを駆使して、最終的に管理者パスワードを入手すれば、安全かつ簡単に全電源喪失を実現できることが理解できていない。
このときの美浜原発の住民避難訓練では、原発敷地内で警察官がパトロールカーの中で居眠りしていたとの米国大使館員のメモが、こともあろうにウィキリークスで世界に宣伝されてしまったという「おまけ」までつくことになった。
電力会社も、原発の危機管理に真剣に取り組んできたとは言えない。
中越沖地震(2007年7月)時の東京電力柏崎刈羽原発の緊急停止と火災発生について、私は自信から2ヵ月後、東電の副社長たちのチームに2回、コンサルを行った。
このときは、原子力を扱ううえで必要な組織改編と人事について提案し、最低限必要とされるロボット、無人機など遠隔操作できる装備品を紹介した。
ところが2011年3月11日、東日本大震災と福島第1原発事故が発生した直後、東電の幹部が「先生が仰ったようになっちゃいました」と述懐することになった。私の提案をなにひとつ実行していなかった結果、事故への対処に支障が生じたからだ。
東日本大震災が発生すると、日本政府とメディアの認識レベルの低さもまた、露呈することになった。
例えば、米海兵隊のCBIRF(Chemical Biological Incident Response Force/シーバーフ、化学生物事態対処部隊)が来日することになると、「原子力事故を収束させる能力を持った部隊」だと思い込んだような報道が展開された。陸上自衛隊の化学防護部隊の能力を高めた組織だという理解が存在していなかった。
そんな日本である。むろん、米国エネルギー省の核緊急支援隊(NEST)と上部組織にあたる国家核安全保障局(NNSA)のような組織は存在しない。米国ではハリウッド映画にさえNESTが登場するというのにである。
米国エネルギー省 核緊急支援隊(Nuclear Emergency Support Team、NEST)とは、国家核安全保障局(National Nuclear Security Administration、NNSA)の実動組織である。核・放射能に関する事態に即応し、探知・解体を任務としている。原子力専門家、技術者、医療関係者、気象専門家、法律専門家などがチームを編成し、武装要員も配置され、核テロリストを瞬間凝固剤の噴射で制圧する能力も備えている。ヘリ4機、固定翼3機、特殊車両も装備している。
日本には、米国保健福祉省の疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)に対応する組織も存在していない。
CDCが関連分野についての世界のセンターの役割を果たしているのに比べて、日本は感染症病棟からして特定感染症指定医療機関(3病院、8床)、第1種感染症指定医療機関(46病院、87床)という弱体ぶりである。
日本としても、エボラ出血熱などの感染症対策を契機として、CDCのような組織を急ぎ整備すべきことは言うまでもない。
このように、一定の対策が整っているように見える日本だが、すべて形式に流れ、縦割りで機能しないというのが実情である。
そこで第2の点だが、日本で大量殺戮を行うには、BCテロがテロリストにとって有効性を持つことは、これまでの説明でも明らかだろう。従って、「脅威は常に存在する」と言わざるを得ないのである。
核関連についても日本は危機的状況にある。日本の場合、とりわけ低濃縮ウランと使用済み核燃料の保管、輸送の面で脆弱性がある。
日本は現在、使用済み核燃料をイギリス、フランスで再処理し、現在のプルトニウム保有量(47.8トン)のうち国内には10.8トンしか保管されていない。海外保管分の内訳は英国20.7トン、フランス16.3トンである。
日本は1992年にMOX燃料をフランスから輸送するため、貨物船を大型巡視船で護衛し、海上保安庁の特殊警備隊(SST)で警備した。この大型巡視船はプルトニウム輸送を警備するために建造されたものだ。
1999年から2010年まで、日本向けのMOX燃料は英国籍武装貨物船で輸送され、英国原子力公社警察隊(2005年以後は民間核施設保安隊)の隊員が乗船している。
使用済み核燃料の輸送
しかし、核物質によるダーティー・ボムのような攻撃なら、原子力施設に出入りする危険物の輸送時に脆弱性が存在している。例えばフッ化水素を積んだタンクローリーは、私が指摘した段階では警察に届けることもなく、従って警備車両が同行することもなく、銀座を通る首都高速道路を使っていた。
六フッ化ウランの輸送
私に通報してきた内部の専門家は、雨の日などにタンクローリーのタンクが銃撃されると、気化したフッ化水素が漏出し、周辺を汚染すると警告していた。しかし、警備当局と原子力の専門家は「かりに六フッ化ウランが積まれていたとしても、沸点が56.5度だから銃撃で発火することはない」とたかをくくっていた。小銃弾には目標を燃焼させるための焼夷実包があることを知らないのである。
タンクローリーのケースだけではない。放射性物質の拡散による社会的パニックは、もっと簡単にできると考えるべきだろう。さきほどの美浜原発の住民避難訓練でも、原子炉周辺の配管類や付属施設を攻撃することによって、低レベルの放射能汚染の危険性を拡散させることは可能だからである。
原発をメルトダウンに至らしめる形の「核攻撃」は、能力の高いハッカー集団などによるサイバー攻撃で可能だと考えなければならない。電力会社の中央コンピュータセンターのセキュリティをコンサルしたときの私の経験でも、米国人のハッカー出身の専門家は40秒で乗っ取り、制御不能に陥れた。
しかし、ここで疑問がある。プルトニウムならともかく、使用済み核燃料を保管・輸送の段階で攻撃するリスクをとるのだろうか。
以下は、こちらが教えていただきたい事柄だが、使用済み核燃料を積んだ貨物船を奪取し、船上で核爆発装置を組み立て、その船ごと日本を含む主要国の港湾の近くで爆発させる、あるいは脅迫するというシナリオは成立するだろうか。
核爆発装置を作りたいテロリストは、再処理されていない使用済み核燃料よりも、MOX燃料のほうを狙うと考えられるが、MOX燃料からプルトニウムを分離・精錬して必要な大きさに切断することは、難しいのか。
低濃縮ウラン燃料を発電用軽水炉で経済的に使用すると、プルトニウムが1.2%、つまり使用済み核燃料1トンあたり核爆発装置1.5個相当生成される。残りの成分はウランが93.4%、放射能が強い物質が多い核分裂生成物が5.2%、プルトニウム以外の放射性の超ウラン元素が0.2%である。
米国など核兵器国が非核兵器国への軽水炉の輸出を支持しているのは、この使用済み核燃料からプルトニウムを分離(再処理)する技術が難しいからだ。軽水炉で生産されたプルトニウムを核兵器に転用した国はない。米国が日本による再処理を容認しているのは、日本がプルトニウムを溶液またはMOXとしてのみ扱う方式を採用し、IAEAが査察しているかぎり、核爆発用の金属プルトニウムを日本が分離することを防止できるからである。
MOX燃料はプルトニウムを4-10%含み、残りは放射能が弱いウランなので、再処理前の使用済み核燃料と比べて、金属プルトニウムを分離しやすい。それゆえ、米国は日本以外の非核兵器国によるMOX燃料の利用を支持していない。
したがって、核爆発装置を作りたいテロリストは、MOX燃料のほうを狙うと考えられる。
テロリストは被曝を怖れない。目的を達成するまで死ななければよいくらいの感覚だから、防護衣をまとったテロリストの手にかかれば、それくらいは可能なのだろうか。
核爆発装置の組み立てができるとして、それが完成しないうちに撃沈することは可能だが、ほかの手段で「人質」(例えばBCテロの脅迫など)をとられていたら、講じる手立ては少なくなるのではないか。
そこで第3の点だが、それを聞きたいのは私のほうだ。
まず、日本が非国家主体から攻撃目標とされる理由について理解しておく必要がある。
イスラム原理主義過激派がめざすところは何か。アルカイダはシャリーアが唯一の法であった7世紀から13世紀にかけてのイスラム世界の再現をめざしており、ISはシャリーアを最大限暴力的に解釈し、コーランの終末論の実現をめざしている。当然、近代文明を象徴する日本のような国は標的となる。これまで日本でイスラム原理主義過激派によるテロが起きなかったのは、たまたま他の国や地域が標的とされた結果で、僥倖だったと考えるべきなのだ。
また、アルカイダなど従来のイスラム原理主義過激派とISの決定的な違いは、ISが必ずしもイスラムやアラブ世界という価値観に拘泥していない点だ。インターネット社会をフル活用してアラビア語以外の言語で戦闘員などのリクルートを行い、イスラム教徒でなくともISの思想に共鳴する者なら誰でも、受け入れている。
貧困や差別に不満を抱く人々だけでなく、近代社会において疎外感に苛まれている人々が参加しやすいのも特徴だ。したがって、中東から遠く離れ、イスラム教やアラビア語と接する機会の少ない日本からも、戦闘員に参加し、あるいは日本国内でテロの実行犯となる可能性のある人々は、跡を絶たないと考える必要がある。
同時に銘記すべきは、テロリストは100%の主導権を握っているという点だ。いつ、どこで、何を目標として、どんな方法で実行するかは、すべてテロリストの胸先三寸にかかっている。そして、攻撃される側は常に不意を衝かれる形になる。だからこそ、2001年9月11日の同時多発テロのように、米国のような超大国を少数の集団が震撼させることが可能になる。
これをみれば、テロ根絶に特効薬などないことがわかるだろう。基本は、奇襲攻撃を受けても被害が局限されるように備え、そのことを通じてテロに走っても無駄だということを知らしめることによって、テロを抑止することを最優先する一方、有効なテロ対策を不断に開発し、テロの原因を取り除く取り組みを愚直に推進し続けるしかない。
テロ対策には3つのアプローチを同時進行させることが不可欠となる。対症療法的アプローチ、予防医学的アプローチ、公衆衛生学的アプローチである。
このうち、一般に言われるテロ対策は対症療法的アプローチである。
対症療法的アプローチは、テロをやっても無駄だと思わせるほどの被害極限などの対策が講じられ、それによって高度な抑止力が生み出されることに尽きるだろう。
日本についていえば、さきほど指摘したような問題点を丹念にクリアしていくほかない。
同盟国・米国のほかに友好協力関係国を増やし、非国家主体の行動を封止していくのが正攻法だが、それが決定的な成果を上げる過程で日本でも攻撃が行われる可能性は増大していくと受け止め、被害を局限できるだけの「国際水準を満たした対策」を講じる必要がある。
予防医学的アプローチは、世界にはどのようなテロリストやゲリラのグループがあるのか、それらはどのような傾向を持つ組織なのか、日本国、日本人、日本企業をどのように眺めているか、どのような方向に持っていけば封じ込めることができるのか、などについて明らかにして、個別に有効な対策を開発していくのである。
公衆衛生学的アプローチは、伝染病の発生を防ぐために蚊やハエを駆除するなどの環境の改善が図られることを危機管理にあてはめ、内戦やテロが生まれる原因を取り除いていこうという考え方である。
世界から内戦やテロが根絶されない背景には、貧困や差別、民族対立といった構造的問題が存在している。そうした問題が世界から一掃されるように、日本は政府開発援助(ODA)にしても明確な投入の構想を描き、効果的な手段を講じていくのである。この取り組みの対象には大量の移民を抱える国々も含まれる。
重要なことは、予防医学的アプローチ、公衆衛生学的アプローチを根気よく、愚直に進めることを怠れば、対症療法的アプローチの有効性は生まれないという点である。
このワークショップから、国際社会が指針にできるような方向性が生まれることを期待している。
III. ノーチラスへご意見・ご質問をお寄せください
本報告に対するご意見・ご質問をノーチラスアジア平和安全保障ネットワーク(nautilus@nautilus.org)へお寄せください。 ご意見・ご質問に氏名、所属、明示的な同意が記されている場合のみ、当ネットワークへの配信を検討します。