REDUCING RISK OF NUCLEAR TERRORISM AND SPENT FUEL VULNERABILITY IN EAST ASIA

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NAPSNet Special Report

Recommended Citation

板橋 功(Isao ITABASHI), "REDUCING RISK OF NUCLEAR TERRORISM AND SPENT FUEL VULNERABILITY IN EAST ASIA", NAPSNet Special Reports, September 22, 2017, https://nautilus.org/napsnet/napsnet-special-reports/reducing-risk-of-nuclear-terrorism-and-spent-fuel-vulnerability-in-east-asia-2/

板橋 (Isao ITABASHI)

2017年9月22日

I. はじめに

板橋功氏は、日本の東京にある公益財団法人公共政策調査会研究センター長であり、主任分析官である。板橋氏は、原子力規制委員会核セキュリティに関する検討会委員であり、警察大学校専門講師、武蔵野大学客員教授、東京工業大学非常勤講師、国士舘大学政経学部非常勤講師でもある。

本論文は、ノーチラス研究所と長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)が共催で、長崎にて2017年1月20~22日に開催した「核テロリズムと使用済核燃料のリスク低下のために」ワークショップのために執筆したものである。

本論文に示された意見は、必ずしもノーチラス研究所の公式な政策や考え方を反映するものではないことに留意されたい。読者におかれては、ノーチラス研究所が重要な課題に対して、共通の土台を構築するためにも、考え方や意見の多様性を目指していることをご理解いただきたい。

Banner image: Japanese Police Radiation Protection Bus, from Police Car.

II.  板橋功氏によるNAPSNETのための特別レポート

REDUCING RISK OF NUCLEAR TERRORISM AND SPENT FUEL VULNERABILITY IN EAST ASIA

2017年9月22日

本日、このセミナー、REDUCING RISK OF NUCLEAR TERRORISM AND SPENT FUEL VULNERABILITY IN EAST ASIA 、でスピーチができますことを大変光栄に思います。そして、それぞれの国で核セキュリティの最前線でご活躍されている皆様にお会いできたことを、たいへんうれしく思います。

簡単に私の自己紹介をさせて頂きます。私は、日本の警察庁のシンク・タンクである公益財団法人公共政策調査会(Council for Public Policy) で国際テロ情勢やテロ対策、組織犯罪対策、危機管理などの研究を行っております。これらの研究をはじめて、30年になります。また、原子力規制委員の核セキュリティに関する検討会の委員(Member of The Committee on Nuclear Security, Nuclear Regulation Authority (NRA, Japan))を務めております。

これまでに、原子力委員会原子力防護専門委員(Member of Advisory Committee on Nuclear Security, Japan Atomic Energy Commission (JAEC))や国土交通省の航空保安に関する検討会の委員、内閣官房や外務省における国際テロ対策の研究会の委員も務めさせて頂きました。本日は、テロリズム問題やテロ対策、核セキュリティなどの研究を行っている立場からのスピーチをさせて頂きます。

Ⅰ 福島第一原子力発電所事故と核セキュリティ

 1.福島第一原子力発電所事故とセキュリティ上の問題

皆様ご承知の通り、日本は2011年3月11日にマグニチュード9.0の巨大地震に発生し、東京電力福島第一発電所において過酷事故(severe accident)が発生しました。

地震発生時、日本の東北地方にある13機の発電用原子炉のうち、東京電力福島第一発電所3機(他3機は定期点検中)、福島第二発電所4機、東北電力女川発電所3機の計10機が運転中であり、地震発生と同時に運転中の10機全てが自動停止しました。女川原子力発電所については、自動停止した1号機から3号機は、12日の1時17分までに全て冷温停止状態となりました。

しかしながら、福島第一、第二原子力発電所では、原子炉は自動停止したものの、想定の2倍を超える14メートル以上の津波や地震の影響により原子炉や使用済み燃料プールを冷却するための電源が喪失し、冷却機能が失われる事態となりました。福島第二発電所については、幸いにも冷却機能が復旧し、15日までに1~4号機全てが冷温停止状態になったものの、福島第一原子力発電所については、原子炉内の燃料棒が損傷し、これに伴って発生した水素の爆発により1号機、3号機、4号機の原子炉建屋が崩壊しました。この水素爆発や原子炉格納容器内の圧力を降下させるためのベント(放射性物質を含む空気の外部への放出)により、放射性物質が大気中に拡散しました。

この事故により、東北地方を中心に日本の国土の広範囲に放射性物質を拡散させ、社会・経済に甚大な被害をもたらしただけではなく、食料品の汚染、学校や通学路の汚染、計画停電や節電など、国民一人一人の日々の生活そのものに大きな影響を及ぼしました。

また、全国の原子力発電所が次々と定期点検等により停止し、定期点検終了後も再稼働ができない状態となり、日本国内の全ての原子炉が停止いたしました。現在、稼働中の原子炉は2基(九州電力川内原発1号機と四国電力伊方原発3号機)に留まっています。

福島事故は、自然災害に起因する事故によって大規模な原子力災害が引き起こされたわけですが、故意の攻撃、すなわちテロによっても同様の事態を引き起こすことが可能であることを明らかにしました。そこで、今回の福島第一原子力発電所事故で明らかとなった核セキュリティ上の課題について整理します。

まず、なによりも原子力災害の甚大さと有効性が明らかとなったことです。今回の事故により、原子力災害が経済・社会はもとより、国民生活そのものにも極めて甚大な影響を与えることが明らかとなり、核を用いたテロの有効性を、世界中のテロリスト達も認識することとなったわけです。

次に、原子力発電所の弱点や脆弱性が世界中に露呈してしまい、悪意ある者、すなわちテロリストが、電気(電源)と水(冷却システム)を遮断して、数時間から十数時間 死守すれば、現在の福島と同じような状況に至る可能性があることが明らかとなったことです。

これまでのセキュリティ上の要所であった中央制御室を占拠する必要もなく、セキュリティ上脆弱な電源や冷却機能などの周辺施設への攻撃が有効であり、セキュリティ上の弱点であることが広く知れ渡ることとなりました。また、使用済み核燃料プールをはじめとした使用済み燃料貯蔵施設もまたセキュリティ上大きな問題があることも明らかになりました。

これらは、原子力発電所におけるテロの標的が増加し、テロの手段が多様化、容易化したことを意味する。ゆえに、従来のテロ脅威の想定を抜本的に見直し、それに伴う警備の見直しや、強化が求められることとなったわけです。

さらに、今回の事故の報道等を通じて、原子力発電所施設の写真や映像、その配置図などがメディアやネット上で公開されたことも、セキュリティ上看過することができない問題です。最近では、セキュリティ上の観点から、ほとんどの原子力施設において写真等の撮影が制限されていたが、今回の事故により、原子炉の設計図までもがネット上に流出しました。このような原子力発電所施設や原子炉の基本的な構造は、どこの原子力発電所でも大きくは変わるものではないわけです。このような施設の配置図や写真が、テロリストをはじめとした悪意ある者でも容易に入手可能になったことも大きな問題です。

そして、平時には作動している監視カメラやセンサー、入退出を管理する認証システムなどのセキュリティ機器も、自然災害や事故等に起因する故障や電源の喪失などにより、緊急時には正常に稼働しない可能性があることも明らかとなりました。また、高放射線量下でのセキュリティの確保も課題であることが明らかとなりました。

さらに、事故当初、福島第一原子力発電所の復旧作業に従事した作業員が特定されていないことが、線量管理の過程で明らかとなりました。身元の分からない者が原子力施設に入っていたわけであり、場合によっては、悪意ある者や第三国に関係する者も含まれていた可能性もあるわけです。作業員の被曝線量の制限の関係もあり、今後も多くの作業員が入れ替わりで従事しなければならない状況があり、このような人的な管理は、セキュリティ上も大きな問題です。

原子力施設に出入りする者の管理や施設への出入り管理はもとより、内部脅威対策の強化も必要であり、原子力施設に従事者する者のバックグラウンド・チェックを含めた信頼性確認に係わる制度の整備が不可欠であることも示したわけです。

2.福島原子力発電所事故後の我が国における核セキュリティ上の検討

福島事故で、このようなセキュリティ上の問題点が明らかとなったことや、またIAEAの勧告文書が改訂されたことなどに伴い、日本政府においてはこれらを踏まえたセキュリティ上の課題への対応についての検討が進められることとなりました。

 (1)「核セキュリティの確保に対する基本的考え方」

原子力員会(Japan Atomic Energy Commission (JAEC))は、2011年9月13日には、報告書「核セキュリティの確保に対する基本的考え方」 を決定しました。この報告書には、福島第一原子力発電所事故の教訓に対する当面の基本的な考え方として、①施設・設備の防護措置の強化、それに必要な体制の整備及び資機材の確保、②不審者侵入防止策の徹底と内部脅威対策の強化、③緊急時対応に係る教育・訓練の強化、④核セキュリティ体制の強化の4点が示されました。

 (2)「核セキュリティに関する技術検討ワーキング・グループ」

福島第一原子力発電所事故は、災害に起因する事故で、安全対策上の問題でしたが、故意でも同様な事態が起こる可能性があるとの認識の下に、原子力委員会原子力防護専門部会(Advisory Committee on Nuclear Security, Japan Atomic Energy Commission (JAEC) ) では、事故から約3ヶ月半後の2011年6月30日には、福島第一原子力発電所事故のセキュリティ上の課題の抽出やその課題への対応について検討を行うための「核セキュリティに関する技術検討ワーキング・グループ」を設置することを決定しました。そして、同年9月30日には「福島第一原子力発電所事故を踏まえたセキュリティ上の課題への対応」と題する経過報告を取りまとめました。

この経過報告では、「この事故は、テロリストに対して原子力発電所等がテロ行為の格好の対象であることを示したことから、原子力発電所等のセキュリティ対策のさらなる強化に早急に取り組むことが必要となった」として、「今回の事故は、原子力施設へのテロ行為により同様の深刻な影響を社会に与える事態を引き起こすことができる可能性を明らかにしている。このため、安全面のみならず核セキュリティ面においても、原子力発電所が強化すべき取組を教訓として取りまとめ、国際社会と共有し、核セキュリティの強化に向けた国際的取組に反映させていくことは、我が国の責務である」との基本的認識の下、原子力施設に求められる核セキュリティ上の課題への対応について、①侵入の早期検知、②テロ行為の遅延、③防護すべき施設の耐性向上、④防護体制の整備、⑤緩和策等の準備、⑥訓練及び評価の実施、⑦内部脅威対策の7点を示し、防護措置を速やかに講じるように事業者や規制当局、治安当局等に求めました。

 (3)「原子力発電所等に対するテロの未然防止対策の強化について」

これらの原子力委員会での検討を踏まえて、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策本部は、2011年11月14日に「原子力発電所等に対するテロの未然防止対策の強化について」 を決定しました。本決定においては、「関係省庁は、原子力発電所等に対するテロを現実の脅威として再認識し、その未然防止に取り組むべきである」、「今回の福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力発電所等に対するテロの未然防止対策の更なる強化を図るため、関係省庁は、緊密に連携協力し、テロ関連情報の収集及び分析能力の強化に配意するとともに、喫緊の課題である次の対策を強力に推進するものとする」とした上で、関係省庁と期限を明記した上で、防護措置の及び内部脅威対策の強化について措置を講じることとしています。なお、防護の強化では、サイバー攻撃を始めとする新たな脅威への対処方策についての検討及び速やかな結論を求めている。また、内部脅威対策の強化については、個人の信頼性確認の制度の導入について速やかに結論を得るものとするとしています。

(4)「我が国の核セキュリティ対策の強化について “Strengthening of Japan’s Nuclear Security Measures” 」

さらに、原子力委員会では、福島第一原子力発電所事故を踏まえたセキュリティ上の課題への対応やIAEAの勧告文書の改訂を踏まえて、原子力防護専門部会で検討してきた、2012年3月21日に「我が国の核セキュリティ対策の強化について」“Strengthening of Japan’s Nuclear Security Measures” を決定しました。

そして、原子力委員会原子力防護専門部会が所掌していた、核セキュリティの問題や核燃料物質等の防護に関する事務の調整については、2012年4月に新たにできる規制組織(現原子力規制委員会)に引き継ぐ予定となっていたため、原子力防護専門部会はこの報告書の取りまとめを最後に、活動を終えました。この「我が国の核セキュリティ対策の強化について」は、現在でも我が国の核セキュリティ対策の基本方針となっています。

2012年9月19日に、予定より半年遅れで原子力規制委員会・原子力規制庁が発足しました。これまで原子力委員会原子力防護専門部会が担ってきた核セキュリティに関する事務(特に調整に関すること)が、原子力規制委員会に移管されました。

原子力規制委員会では、我が国の核セキュリティ強化の着実な推進や核セキュリティに関する国際貢献に取り組むために、幅広い視点から核セキュリティに関する当面の諸課題に対応することを目的として、2012年12月19日に「核セキュリティに関する検討会」を設置することを決定し、2013年3月4日に第1回の核セキュリティに関する検討会を開催しました。

核セキュリティにおける主な検討課題である、①信頼性確認制度の導入、②関係組織間の責任(役割分担)、③設計段階からの核セキュリティ、④核セキュリティ文化の醸成、⑤輸送時の核セキュリティ対策、⑥放射性物質及び関連施設の核セキュリティ、⑦核セキュリティ事案の検知と対応計画、⑧規制上の管理を外れた物質及びその他の放射性物質に関する核セキュリティの8つの課題の内、①信頼性確認制度の導入、⑤輸送時の核セキュリティ対策、⑥放射性物質及び関連施設の核セキュリティの3つの課題を当面優先して検討することを決めました。

Ⅲ 内部脅威と信頼性確認制度

1.国内外における核セキュリティ関連事案

核物質や原子力施設、放射性物質などを用いたテロとしては、核兵器による攻撃、原子力関連施設への攻撃や占拠などの妨害破壊行為、核関連物質等の輸送(海上、航空、陸上)を狙った攻撃や奪取、ダーティ・ボムやRDD(放射線拡散装置)などを用いた放射性物質の散布などが考えられるわけですが、この前段階の核兵器や核物質、放射性物質の盗取や関連施設への侵入、その他の悪意ある行為などを防ぐことも核セキュリティ活動に含まれます。

必ずしもテロリストが行った行為ではありませんが、我が国でも放射性物質の盗取や散布などのいくつかの核セキュリティ関連事案が発生しています。

主な事案としては、

・1997年6月に、大阪大学遺伝情報実験施設の技官が放射性物質を盗取して同施設内に散布した事件

  • 2000年12月に、大阪高槻市の日本たばこ産業(JT)医薬総合研究所の研究員が同研究所からヨウ素125などの放射性物質を盗取してJR高槻駅で散布した事件、
  • 2007年10月に、宮崎大医学部助教が放射性物質(ヨウ素125)を盗取し臨床研究棟の研究室内で散布した事件
  • 2008年4月に、千葉県市原市の「非破壊検査株式会社」東京事業本部京葉事業部の保管庫から下請け会社の役員が放射性同位元素イリジウム192を盗取した事件
  • 中部電力浜岡原子力発電所の放射線管理区域内での白金板約2Kg(約1,000万円相当)の盗難事件(2007年9月発表)

などが発生しており、これらは全て内部の者による犯行です。

また、福島原子力発電所事故に関連した事案としては、事故発生直後に福島第一原子力発電所で作業していた作業員の身元が不明であることが被爆線量管理の過程で明らかとなった事案、2011年3月に東京電力福島第二原子力発電所に右翼が侵入した事案、同年8月に「ふくいちライブカメラ」に不審人物が写りインターネット上で騒然となった事案などがあります。

さらに、2015年4月に総理大臣官邸に墜落させたにドローンに微量の放射性物質(福島の土壌)が搭載されていた事案が発生しています。そして、その犯人のブログには川内原子力発電所や玄海原子力発電所のセキュリティに係わる写真が掲載されていた。

一方、海外では、

  • 2000年8月及び2005年11月に、オーストラリア・シドニー郊外のルーカスハイツの研究用原子炉を狙ったテロ計画が摘発された事案
  • 2001年12月に、グリーンピースの活動家が同ルーカスハイツの研究用原子炉を占拠した事案
  • 2007年11月に、南アフリカのペリンダバ核施設が襲撃された事件
  • 2009年10月に、スイス・ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(European Organization for Nuclear Research;CERN)で働いていたアルジェリア系フランス人研究者がAQIM(イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織)と関係しているとして仏当局に拘束された事案
  • 2010年3月に、イエメンで逮捕された、アルカイダとの関連性が疑われる男が、2002年から2008年にかけて、米国ニュージャージー州の原発で作業員として勤務していたことが明らかになっています。
  • 2011年7月に、ノルウエーで発生した連続テロ事件(オスロ政府庁舎爆破事件、ウトヤ島銃乱射事件)の犯人が、犯行前に英極右組織に対し英国内の原発を攻撃するように呼びかけていた事案
  • 2012年5月に、フランス東部にあるビュジェ原子力発電所にグリーンピースのメンバーがパラグライダーで上空から侵入した事案
  • 2013年7月に、フランス南部にあるトリカスタン原子力発電所にグリーンピースのメンバーが侵入した事案
  • また、2016年3月に発生したベルギー・ブリュッセルでの連続テロ事件では、原子力発電所でのテロも計画していたとされている。また犯人宅から、原子力施設の幹部宅の出入りを撮影したビデオが押収されたと報道されている。

このように、核セキュリティに関連する事案は国内外で発生しており、そのうちの多くの事案に内部脅威者か関係している。国内で発生した放射性物質の盗難、散布事案のほとんどが内部犯行またはそれに準じる事案であり、また海外の事案ではテロ組織と関係する人物が核関連施設で研究に従事していたとして仏当局に拘束されるという事案も発生している。原子力施設や核関連施設、放射性物質などを扱う施設においては、それぞれレベルの差はあるにしても、このような内部脅威に対する対策は不可欠となってきていることがわかる。

2.テロリズムにおける内部脅威について

テロリズムにおいてターゲットの内部に協力者を送り込んだり、内部の者を協力者に仕立て上げたりすることは常套手段である。1970年代にはテロ組織による航空機のハイジャック事件が多発したが、この時には航空会社や空港、機内食の会社などにテロリストを社員として送り込んだり、すでに社員や職員として働いている者を脅迫などにより協力者に仕立て、手榴弾などの爆発物や銃器などを事前に機内に隠させたり、機内食のワゴンの中に隠させたりするケースが多かった。

インドネシアでは、2002年にバリ島で、2003年、2004年にはジャカルタで、2005年にバリ島で、4年連続でJI(ジュマ・イスラミア)によるテロ事件が発生していたが、2006年から2008年までの3年間は大きなテロ事件が発生していなかった。しかしながら、2009年7月17日にジャカルタの米系ホテル(リッツ・カールトンとJWマリオット)で爆弾テロ事件が発生した。このテロでは、数年前からテロリストの協力者がホテルの花卉造園業者として出入りしており、この者の協力によりテロが成功していたことが明らかになっている。大きなテロ事件が発生しなかった3年の間に、彼らは着々とテロの準備を進めていたことになる。

この他にも、2007年6月にFBIがNYケネディ国際空港を狙ったテロを計画したとして、ガイアナ出身の空港職員ら3人を逮捕した事案、またオウム真理教が官庁や大手企業などのソフトウエア開発の孫請け会社に信者を送り込んでいた事案などが有名である。

また、2013年1月にアルジェリア南部のイナメナスの天然ガス施設で発生し、日本人10人を含む外国人多数が死亡した占拠・人質事件においても、内部協力者の存在が指摘されている。

テロリストが社員や下請け業者に直接侵入する場合もあれば、すでにそこで従事している者を脅迫するなどして協力者に仕立てる場合もある。そして、このような内部協力者は、数年から10年などの長いスパンで考える必要がり、怪しまれる行動は殆どせずに、真摯に働くことにより上司や周囲の関係者の信頼を得ることにより、より高いアクセス権や情報などを入手できる立場になってから、彼の情報や手引きによって犯行が行われるケースが多い。

3.我が国における内部脅威対策の検討プロセス

内部脅威対策として重要なのが、そこに従事する人物について事前にチェックを行信頼性確認制度である。特に、航空分野ではICAO(民間航空機関)の条約付属書により、また原子力分野ではIAEA(国際原子力機関)の勧告書により従事者に対する信頼性の確認が求められている。これは、テロの標的となりやすい、あるいはテロが行われた場合には大きな被害が出る可能性のある分野であることから、いずれも国際的に求められているわけである。このような国際的な要請が高いにも係わらず、我が国においてはこのような制度の導入が遅れていた。

IAEAでは、信頼性確認制度の導入については、1999年6月に発行されたIAEAのガイドライン「核物質及び原子力施設対する防護」(INFCIRC/225 Rev.4)においてもその導入が求められており、また2011年1月のIAEAの勧告(INFCIRC/225 Rev.5)では、事業者に対する信頼性確認に政府が関与することが新たに求められている。信頼性確認制度は、主要国のなかでは我が国のみが導入されていないことから、この制度の導入は喫緊の課題であり、特に、福島原子力発電所事故を起こし、原子力発電所のセキュリティ上の弱点や脆弱性を露呈させてしまった我が国においては、このような核セキュリティ上の制度の整備はむしろ率先して行うことが責務であると考える。

我が国における、信頼性確認制度についての議論は、1999年6月のIAEAのガイドライン(INFCIRC/225 Rev.4)に盛り込まれたことから、2004年12月の「テロの未然防止に関する行動計画」でも指摘され、この検討の過程で議論が行われた。

経済産業省の総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力防災小委員会では、2005年1月に危機管理ワーキンググループを設置して、内部脅威対策や信頼性確認についての検討を行った。報告書では、「プライバシーを含む基本的人権に一定の制約を課すことについて、国民の理解と合意を得ることが必要」、「民間施設である原子力施設に信頼性確認を導入することを国民が許容し得る課という点や、安全確保が必要な他の産業分野とのバランスについて、配慮が必要」などの指摘し、①分野横断的な信頼性確認制度の創設、②現行制度で可能な信頼性確認措置の検討、③DBT を用いた内部脅威対策の実施の3つの政策の方向性を示したが、①については「引き続き関係省庁間での慎重な検討が必要である」とし、②についても「引き続き慎重に検討することが必要である」とした。

また文部科学省でも、2005年に研究炉等安全規制検討会で内部脅威者対策や信頼性確認について検討を行ったが、「犯罪歴等を用いた信頼性確認については、国民的な合意の必要性、法整備等の課題を踏まえ、どのような分野において実施するかも含め、引き続き関係省庁間での慎重な検討が望まれる」とした。

いずれも、信頼性確認制度の導入については、慎重な検討が必要であるとして、先延ばしを行った。

福島事故を受けて、原子力委員会原子力防護専門部会は「核セキュリティの基本的考え方」において、「規制行政機関、関係行政機関及び許可事業者は、法に基づき、また、人権に配慮して、核セキュリティに対して悪影響を及ぼし得る内部脅威者の脅威を最小化する取組みに努力すべきである」とし、また「核セキュリティの基本的考え方」(2012年3月)において、信頼性確認制度の必要性について、「福島第一原子力発電所事故を踏まえると、社会に深刻な影響を与える可能性がある原子力施設へのテロ行為に対する対策の充実は我が国にとって緊急の課題であると判断されることから、我が国においても本勧告が対象とする核物質及び原子力施設に係る分野において信頼性確認制度を導入することを目指して、具体的な制度についての議論を開始するべきである」とし、信頼性確認制度に係る検討については、「今後は、上述の制度導入の必要性を踏まえ、規制行政機関が連携して、治安当局をはじめとする関係行政機関の積極的な協力を得つつ、具体的な制度導入に向けた検討を進めることが期待される」として、信頼性確認制度の早期の導入を求めている。そして、「信頼性確認に際しては、個人情報の調査や第三者への照会、さらにそれらの情報の評価が必要となることから、国の機関が主体的に関与することが求められる」としている。

信頼性確認制度においては、個人の情報を取り扱うこと、またIAEAの勧告(INFCIRC/225 Rev.5)においても国の関与が求められていることから、国が主体的に関与することが望ましいと私自身は考えている。

4.我が国における信頼性確認制度について

原子力委員会原子力防護専門部会で取りまとめた、上記の「核セキュリティの基本的考え方」は、予定より半年遅れで2012年9月19日に発足した原子力規制委員会に引き継がれ、さらに半年遅れの2013年3月4日に第1回の「核セキュリティに関する検討会」が開催されました。

信頼性確認制度は、この核セキュリティに関する検討会の下に、「個人の信頼性確認制度に関するワーキンググループ」が設けられ、2014年1月24日に第1回会合が行われ、約1年9ヶ月かけて2015年10月19日に「個人の信頼性確認制度の方向性について」という報告書が取りまとめられ、我が国における信頼性制度の方向性が示されました。

このワーキンググループの議論では、当初は、立法によって制度を規定し、原子力規制委員会(国の機関)が確認主体となる案なども検討されましたが、結局、規則の改正で制度設計を行うこととし、事業者が確認主体となる方向性が示されました。また、確認主体が信頼性を確認するための個人情報については、確認主体である事業者が第三者に対して個人情報の提供を求める権限を有していないことから、申請者の自己申告によって個人情報を取得し、公的な証明書の添付を求めたり、面接考査及び適性検査などを実施することにより、信頼性確認を行う方向となった。

このワーキンググループの報告書を受けて、2015年10月21日の原子力規制委員会において、本制度の導入等の方向性が決定された。そして、2016年9月7日の原子力規制委員会において、信頼性確認制度を実施するための関係規則の等の改正が決定され、同年9月21日に関係規則等が公布され、同日施行された。

本制度の概要は、以下の通りである。

○ 対象施設

・再処理施設

・実用発電用原子炉施設

・研究開発段階発電用原子炉施設

・特定原子力施設(東京電力福島第一原子力発電所)

○ 対象者

・防護区域等の重要区域への常時立入者

・防護秘密を業務上知り得る者

 ○ 有効期間

5年以内

○ 確認項目

・氏名

・生年月日

・国籍

・住所(居所)

・所属法人と部署

・学歴

・職歴

・原子力施設での勤務履歴

・海外渡航歴

・犯罪と懲戒の経歴

・後見登記

・破産手続開始決定の有無

・精神疾患の有無

・アルコールや薬物の影響の有無

・外国による、防護を妨げる行為との関連がないことの誓約

・テロリズムその他の犯罪行為を行うおそれがある団体(暴力

団を含む。)との関連がないことの誓約

・虚偽がないこと、法令遵守・秘密保持に関する誓約

そのほか、面接や性格等に関する適正検査の実施

終わりに

今回、導入されることになった我が国における信頼性確認制度は、必ずしも十分な制度とは言いがたい面がある。しかしながら、まずは制度を作り、一歩前進させることが重要である。

そして、運用状況を見ながら、見直し、検討を行うことが必要である。この点について、核セキュリティに関する検討会個人の信頼性確認制度に関するワーキンググループの報告書は、最後に以下の通り指摘している。

「本制度導入後には、その実効性及び有効性について検証を行うとともに、我が国における本制度のあり方について継続的な検討を行うことが必要である。付言すれば、当ワーキンググループは、我が国の安全保障上、重要インフラ施設に対するテロ対策としての個人の信頼性確認の必要性については、より根本的に国として検討する視点が必要と考える。」

国が主体となり、原子力や航空保安の民間従事者を対象とした、犯罪歴など国が所有する情報やインテリジェンス情報などを活用した信頼性確認制度の確立が将来的には必要であると私自身は考えています。

ご静聴、ありがとうございました。

III. ノーチラスへご意見・ご質問をお寄せください

本報告に対するご意見・ご質問をノーチラスアジア平和安全保障ネットワーク(nautilus@nautilus.org)へお寄せください。 ご意見・ご質問に氏名、所属、明示的な同意が記されている場合のみ、当ネットワークへの配信を検討します。


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